数学・物理学界の偉人のひとり、ラプラスは、「この世の全ての原子の状態、全ての力をも知っている英知が、なおもこれらのデータを解析するだけの広大な能力をもつならば、すべての事象は予測可能である」と考えました。これに対して、人間は無知であり、無限に近い予測の能力も持たないため、未来の事象は完全には予想できず、これを偶然として片付けている、という訳です。―この偶然を論理的にあつかうため、ラプラスは、確率論の系統を作りあげたのです。
しかし、後に量子力学が発展するにつれ、このような英知が存在できないことが明らかになりました。粒子の位置と運動量、時間とエネルギーを同時に精確に観測することは不可能だし、一方の量を確定するともう一方の量が変化してしまうためです。かくして、ラプラスの考えた英知―いわゆるラプラスの悪魔―ほとんど絶滅してしまいました。
2012年は、ラプラスが確率論を系統的に記した「確率の解析的理論」が発行されて200年目にあたります。量子力学が生まれる前、因果的決定論と呼ばれる世界観に基づき、数学や物理学を大きく発展させた、ピエール=シモン・ラプラスへの敬意を表し、ここに本同人誌を発行致します。