お釈迦様がみてる:プレリュード
(※製品版の内容はプレリュード版と異なる可能性があります)


**一**

 境内にゴーンゴーン、という鐘の音が響きわたり、本堂からは読経の声が聞こえてくる。参道では桜が咲き乱れ、枝からはなれた花弁が青一色の空に新たな色彩を加える。

 總本山汰豫守寺(そうほんざんたよかみでら)。ここでは今日も、坊主たちが悟りを開くための修行を続けている。四時に起床し読経を行い、精進料理の朝食を食べ、境内の掃除や写経などを行う。今でこそ滝に打たれるような修行はないが、戦前にはよく行われていたそうだ。しかしその本質は今も昔も変わらない。善業を積み、悪業を落とすのが仏教の修行である。



**二**

 朝、目覚まし時計が鳴るより前に目覚める。今日は**大学の合否発表の日だ。ことごとく国立大学を失敗した俺は、最後に私立**大学を受験した。
「………。」
試験のときのことを考えると、なんとも言えない不安やら諦めやら、いろいろな思いが混じり合い、憂鬱な気分になった。

 しばらくして、家の前に車が止まり、呼び鈴が鳴らされる。ついに来てしまった、郵送での合否通知。二階の自分の部屋から出て階段を下りると、母親が無言でまだ封を切っていない大きな茶封筒を手渡した。
「………………。」
無言で、封を切り、書類を取り出す。
「……不合格。」
また落ちてしまった。母親もほとんど諦めたような顔で台所へ戻る。

 しばらく沈んでいると、父親が寝室からふらふらと出てきた。
「どうだったか?」
そういいながらテーブルの上の書類を見た。
「おお、また落ちたのか。」
俺は怒られるかと思ったが、想像していたほど怒ってはいないようだった。
「で、どうするんだ?」
「どうするって、浪人するしかないだろ?」
そういうと、父親は無言で紙を取り出した。
「……總本山汰豫守寺?…………もしかして親父、俺に坊主になれと?」
「そうだ。」
「ちょっと待てよ、将来どうすんだよ。職業とか!」
「坊主になればいいだろ。ほら、坊主丸儲けって言うだろ。」
「坊主がどうして儲かるんだよ。」
「この間葬式行っただろ?あれ、いくら払ってるか知ってるか?」
そういえば、あの葬式のとき、喪主の人が坊主にお布施と書いてある白封筒を渡していた。
「お経代が三十万円、戒名代で四十万。もし寺を使ってやるならそれプラス五十万円」
「えっ?一回の葬式で?」
「そうだ。」
「………考えてもいいかな…坊主も…」



**三**

 大きな木造の門の前で、一人の少年が、中に入ろうか入るまいかと三十分ほど悩んでいた。

「ああ、やっぱ坊主はやめておこうかな…」
ようやく結論が出て、少年はもと来た方向へと歩き始める。しかしほんの十メートルも行かないうちに、その結論は無駄になってしまった。
「そこの少年、この汰豫守寺に何かご用かな。」
振り返ると一人の坊主。
「あ、いえ、何でもありません。」
もちろん、すでにやめておくと決めていたので、そのまま帰ろうとする。
「君の手に持っているのは汰豫守寺のパンフレット。なんと、出家希望者か。」
「いえ、関係ありません。」
「恥ずかしがらなくてもよいのですぞ。出家して俗世から離れ、仏の道を歩むのはすばらしいこと。それでは早速、拙僧が寺を案内しましょう。」
そういうと坊主は少年の手をつかみ、少々強引に寺の中へと引っ張っていった。

 こうして、この少年の災難は始まったのであった。







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「さあ、兄ちゃまとでも兄くんとでも兄君様とでも呼びたまえ。」
「……はぃ?」
「それならばお兄ちゃまとでもお兄様とでもアニキとでも兄やとでもおにい
  presented by C.E.A. ケミカルエキス同好会 2004